第1話「ラヴォール侯国」

 外を出歩くのが苦行となり、蝉たちの声も断末魔に聞こえる季節。
 エアコンの効いた部屋でのんびりネットゲームこそ至高。

 バニラアイスの乗ったメロンソーダを喉に染み込ませつつ、設定温度下げ過ぎて寒いとか贅沢言っちゃう今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 私は普段楽しんでいるFINAL FANTASY XIをお休みつつ「種族(仮)」というフルダイブ型のゲームをプレイするところです。

 このゲームは自分のオリジナル種族を作って、国造りなどして楽しんだあと、その記録を物語風に編纂して発表するって代物。
 今年の上半期ベスト1をとった竜人族の長編物語がくっそ面白くて、自分も作ってみたいと思って買っちった。

 神視点でもいいけど、私は世界に入ってオリジナル種族と交流する派。
 ただいま設定を入力しているところです。



>>種族

>メゥリリー族

>見た目はいわゆる美少女であり、身長150〜160センチ前後、マラソンランナー体型。

 美少女の定義は私がパソコンに保存している可愛いイラストを読み込ませる。

>基本的に色白で銀髪の赤瞳だがカラーバリエーションは豊富、 首から下の体毛が無く俗に言うムダ毛が生えていない。
>体臭が弱く、ほとんど無臭である。20歳前後で老化が止まり寿命は200歳前後。

>華奢な体躯をカバーするように、肉体強化のバフ魔法と空を飛ぶ能力がある。
>怠惰な生活をしていても体型や体調は崩れず、病気もしなければ毒も無効という特徴がある。

 さて。種族を作ることから、排便や性的な事情なども、しっかり入力しないといけない。
 そこを飛ばすと排便や性的なことから発生する文化や風習がごっそり無くなってとても不思議な世界になってしまう。
 作成画面がエログロなので、心して画面を開こう。

>通常時の股間は何も無く、マネキンのような状態。排便は尿便双方とも肛門から。
>自分の股間に男性器や女性器を任意で生成や消去ができる。

>男性器を生成しても睾丸は存在しない。
>女性器を生成しても子宮は存在しない。

>睾丸も子宮も子を成す時のみ生成する
>異種族交配の際は混ざらずハーフなどは産まれない純粋なメゥリリー族を出産。

 とりあえず、これくらいを入力して、詳細はAIにまかせよう。

>>プレイヤー設定

>フルダイブ、自分もプレイヤーとして参加。

 んーーー。
 世界に入り込むとしたら、痛いのは嫌だなぁ。
 オリジナル種族と交流するのはいいけど、辛いのはNGだわ。
 ……よし。

>>プレイヤー特典

>MP無限、毒、病気、呪いなどのデバフ無効。
>絶対寝かせる睡眠魔法と魔法バリアーが使える。

 病気、毒無効はもともとメゥリリー族にある設定だけど、念押しで入力しておく。

>セーブポイントからの復帰可能。
>復帰は、死に戻りと自己判断にて。

>>世界観

 んー。世界観設定かー。
 さっさとプレイしたいんだよなぁ。作り込み始めたらエライ時間かかりそうだし。

 そういえば、上半期ベスト1をとった竜人族のプレイヤーさん、AI生成にお任せしたって言ってたな。
 私が作ってもチープなものになりそうだし、それで行ってみるかな?

 ……あ、そうだ。

>>AIソフト起動
>AI 「ご要望は?」
>ゲーム「種族(仮)」の世界観設定を私の代わりにやって。
>「FINAL FANTASY XI」の世界観を元に生成をお願い。
>AI 「承知しました」

 よし、これで楽しいものができるはず。
 これじゃない感のが出来たら、やりなおせばいいだけの話。

>AI 「FINAL FANTASY XI の世界観との違いはどれくらい変えますか」

 ん? ああ、そうねー。
 本来の設定、あまり私、知らないんだよね。

>「パラレルワールド」と言われて納得するぐらいの相違で。

 これでいいや。
 時間かかりそうだし、ちょっとコンビニいってこよう。
 1時間ぐらいでいいかな。







>AI 「FINAL FANTASY XI」の「パラレルワールド」へ「接続」了解しました。
>AI 異世界を検索します。
>AI ……。
>AI ……。
>AI ……………。
>AI 「該当4239世界」
>AI 「ゲーム「種族(仮)」の設定を継承できる該当4世界
>AI 「ゲーム「種族(仮)」の設定を継承して異端扱いされない該当2世界
>AI ゲームとして楽しめる該当1世界
>AI 「接続します」







 やはり、コンビニのスィーツのレベルは一昔前と大違いだな。
 ケーキ類が特に素晴らしい。

 年齢が原因であまり多く食べれないのが悔しいところ。
 ケーキとコーラなんて大好物だったが、胸やけするのでケーキと緑茶になるこの頃だわ。
 悔しいったらありゃしない。

 ……お。できてんじゃーん。
 とりあえず飛び込んでみて、ダメそーなら作り直しでいいかな。

 ネタバレは全然平気だけど、今日は何も見ないで飛び込みたい気分!
 よーし。
 行ってみよう!!



 ……お?
 ここは?



 ああ、わかる、FF11の北サンドリアかな?
 身に覚えのある建物があるわ。



 おおー。
 自分の身体が美少女。

 ……、って、これ、ヒュム♀のもいん(公式名ミア)か?
 メゥリリー族の設定としては、ちょっと解釈違いがあるけど。

 服装は上がウォーアクトン、下がハゴンデスパンツ、武器はダークモール。
 マスクのようなのは黒月半首。んで、ジョブはFF11の黒魔だな。

 しかも私がプレイしてたキャラのレベルだ。
 よしよし。強いぞー。
 これで無双できるんじゃないかな?

 しかも、メゥリリー族の種族特性、バフ魔法と、空を飛ぶ能力、プレイヤー特典のMP無限、毒、病気、呪いなどのデバフ無効。
 絶対寝かせる睡眠魔法と魔法バリアーが使えるってのがあるから、完璧だ!!

 ……って、こんなオレツエー無双で、面白い物語はできないな。
 いろいろと調節していかにゃ。

 にしても……。

「突然この世界に入らなかったか?」

 おかしいな。
 普通は世界に飛び込む為にいろいろなステップがあるはずなんだけどなぁ。

 フルダイブを起動して、アナウンスがあったり、ガイドキャラがいろいろと注意点などを言ったり、当ゲームのオープニングやUIの操作設定、チュートリアルとか出るはずなんだけども?

 UIの出し方わからんから、ゲームのメインであるメゥリリー族の増やし方が分からない。
 今現在、周囲に見えるのはFINAL FANTASY XIの種族ばかりで、メゥリリー族は私1人だ。
 
 仕切りなおそうにも、ログアウトがわからん。
 
 っ……あっ! FF11のゲームコントローラーを想像してみたらFF11のUIは出た! ……けど、システム設定系が出ない。
 
 んー。
 とりあえず、宿をとって、そっちでじっくり考えてみるか。

 ここはサンドリアのどこだろうか。
 微妙に違うんだよね。







 ……え? ラヴォール……侯国?

 サンドリア王国に属するアデール・ド・ラヴォール侯爵が治めるラヴォール侯国とな。

 おぉー。なんていうパラレル度合!

 あれか? クリスタル戦争が起きなくてそのまま平和に行ったラヴォール村の行く末の形か?
 あの小さな村がここまで大きくなるのか?

 クリスタル戦争っていうのは平たく言えば人間側と魔王側に陣営が分かれて起きた戦争の事で、FINAL FANTASY XIのゲームでは「20年前のこと」と設定されており、プレイヤーはクリスタル戦争から20年後の世界から物語が始まる感じだ。

 プレイヤーはとある方法を使うとクリスタル戦争真っ只中に行くことができ、ラヴォールにも来ることができる。
 ラヴォールはクリスタル戦争時に魔王側の軍に占拠されてしまっていた小さな村で、戦後に人「は」住んではいない。

 念のため「クリスタル戦争は起きなかったのか」っと聞いてみると、クリスタル戦争っていうのを知らなかったので、やっぱり勃発はしなかったんだな。
 近くにあった戦争は去年(C.E.858年)に北の地で魔族とかオークとかが戦争したらしい。

 うん。私らには関係ない。

 FINAL FANTASY XIのゲーム開始時がC.E.何年かは覚えてないけれど、街並みからするゲーム開始時よりも時代は進んでいると思う。

 とりあえず、当面の目標はここでノンビリ冒険者でもやりつつ、ログアウト方法を見つけることかな。




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