第2話「親方! クリスタルの中から全裸の美少女が!」

 私がこの世界で驚いたことの一つに流通がある。

 かなりしっかりとした流通形態が整っており、ラヴォール侯国のあるノルバレン地方は大陸北西であるが、海を越えた先である南東のエルシモ地方の物資がわずか2〜3日で運ばれてくる。

 飛空艇と呼ばれる空飛ぶ船が流通で使われ、毎日ビュンビュン飛んでいるのだ。

 飛空艇が出来たのっていつ頃だったか?
 ゲームではクリスタル戦争後だったような? いや、戦中? 詳しくは知らないなぁ。
 まあ、この世界は私の知っているFINAL FANTASY XIとは大きく設定が離れているから知ってても意味がないけれど。

 今私は武器防具の店で、装備を選んでいる。

 豊富にある装備の他に、装備に付加するアイテムもいっぱいだ。
 初期の装備の見た目を変えたくなかったので、付加アイテムを吟味している。

 刃物を通さない防刃の布を買うべきか、それとも衝撃を抑える緩衝プロテクターを買うべきか。

 この世界に来た時に私が装備していたのはウォーアクトンで、綿と革で出来ている。
 ゲームでは鉄でできたアイアンスケイルよりもウォーアクトンの方が防御力が高かった。
 が、この世界の装備は「見た目通り」で、普通に綿のウォーアクトンより鉄のアイアンスケイルの方が硬い。

 また、それは人間の頑丈さも同様だ。
 レベル99の私はゲームでは隕石受けても平気だったけど、この世界の私は見た目通りの一般女性ぐらいの頑丈さしかない。

 刃物で刺されたり、棍棒で殴られたりしたら死ぬのだ。

 この世界の人々のレベルをざっというと、レベル10から戦力カウントで、レベル20から一人前と呼ばれ、レベル30から頼りになるベテラン。

 レベル40からは上級者で親衛隊や特殊部隊などに配置される人材。レベル50は達人で畏怖の対象だ。

 そしてレベル上限は50でそれ以上は上がらない。

 私はレベル99だから、どうしようもない領域の人間だろう。

 しかし攻撃力や魔法の威力はスゴイが、身体が人間なのだ。
 ドラゴンはもちろん、なんなら野犬に噛まれても死ぬ。

 ていうか、死んだ。

 回避が高いから敵にからまれても大丈夫っしょって思って、ちょっと外をフラフラと見てまわっていたら、崖で足を滑らせて落下死。

 あんな高さゲームだったら平気だったろうに。これが人間の体の脆さか。

 あと、私はメゥリリー族の種族特性で空が飛べるし、プレイヤー特典で無限のMPと魔法バリアをもっているが、咄嗟に起きた事に対処できなかった。これが人間の心の脆さか。

 こうなってくると、突如モンスターに殴られて死ぬ危険性があるなっと痛感し、装備を整えているところだね。

 ああ、そうそう。
 死んだはずなのになぜいま生きているかって言うと、この世界のクリスタルによるものだ。



 ゲームと同じでこの世界にもクリスタルがあり、クリスタルに登録すれば死んだ際に復活できる。
 私のような見た目が弱そうなのが、外に出て行っても衛兵が呼び止めない理由だな。
 クリスタルへの登録は薦められたが。

 死んでから復活までに一か月ほどかかる。
 死ぬと同時に肉体が光の粒子になり、登録したクリスタルへ収納され、一か月後にクリスタルから出てくる形だ。

 光の粒子になるのは肉体のみで、持ち物や装備品はその場に残ってしまうため、大事な物を持っている時は注意が必要だ。

 私は滑落時にたまたまパトロールの衛兵に見られていたため、持ち物や装備品は届けてもらっていた。サンキュー衛兵。なにかあったら私のLv99パワーで手伝ってやるぞ。

 復活時はもちろん全裸で、メゥリリー族の身体だと股間がツルツルのマネキン状態なので変に怪しまれる、または心配される恐れがあるなと思った。
 まあ、クリスタルの施設がある場所の職員が女性(型)の身体をじっくり見るなんてことはしないから、今回は発覚しなかったが、うっかり見つかったら面倒。
 普段は女性器にしておくとしよう。

 ……おかしい。
 男性器や女性器が身体にあることの鬱陶しさから解放されるのがメゥリリー体の良いところなのに、これではメゥリリー族になった意味が一つ失われたぞ。
 早いところメゥリリー族を増やす方法を発見して、世界に認知されるようにしなければ。

 ちなみに「デジョン」でも、やっぱり肉体のみのワープだ。

 ゲームでは登録したクリスタルにワープできる「デジョン」。
 この世界の人間は「デジョン」をまったく知らない。

 ワープ系の魔法は怖くて使っていなかったが、復活時にクリスタルから排出された際、ちょっとやってみたくなり、見ているものが居ない隙に使ってみた。

 復活に一か月かかるなんて事は無く、デジョン後すぐにクリスタルから排出された。体感は復活時の排出と同様の感覚。

 周囲を見るとデジョンを唱えた時に立っていた場所に着替えの長Tシャツが落ちていた。



 登録してあるクリスタルが破壊された状態で死ぬともう生き返れない。

 戦争などがあったら、敵兵を倒した後、復活までの一か月以内にクリスタルを破壊するのが目標となる。
 クリスタルを破壊できない場合は装備品を回収して、戦えないようにする。

 私が死んでいた一か月の間に、サンドリア王国で暗殺未遂とかあったらしい。王族は個人個人でクリスタルを所有しているので、暗殺するとなると大変だろうな。

 通常は各街の神殿っぽいところに設置してあるクリスタルに登録するが、クリスタルは魔法でいくらでも量産できるので、個人所有は簡単にできる。

 ただ、たくさんの人が登録しているクリスタルはたくさんの人が守ってくれるので、そっちの方が安心。専用の職員もいるしね。

 復活時に全裸で道具も何もなしというのがネックで、誰も知らない山の中に個人所有のクリスタルを設置したら、全裸で山道を抜けて街に戻ることになる。
 誰も知らないところだと、なにかの拍子にクリスタルが壊されてしまう危険性もあるし。

 それならばと頑丈な金庫の中なんかに設置してしまうと、自分が生き返った時、金庫の中でリスポーンすることになる。
 リスポーンと死亡を繰り返す無限地獄が起きるかもしれない。

 いずれにしろ変なところに設置するのはオススメしない。

 そうそう。
 王族の個人所有は、1個ではなく、100超える数所有して「どれかに登録する」というやり方をしているようだ。
 まあ、戦争で負けたような状態だったら、一か月もあるから全部壊されるだろうけどね。

 ちなみにゲームと違ってクリスタルからクリスタルへのワープはできないぞ。



 さて。
 刃物を通さない防刃の布を購入し、装備を加工してくれるお店へと向かう。

 道中、様々な種類の屋台がたくさんあるので、ちょいちょい摘まみながら歩く。
 一口大での注文が可能だから、ちょっとずつ食べれて実によき。
 ホントいうと、私は衛生面から屋台は怖いと思っているが、小腹の減った時に肉の焼ける匂いは反則ですわよ奥様。

 粉もの、肉類、酢の物、いろいろ食べているウチにふと気が付く。
 甘い物を扱うところが無いなと。

 どこの出身の人でも楽しめるって思えるほどの種類豊富なこの屋台群で、なぜか甘い物は無かった。

 無数の屋台の中からやっと飴のようなものを見つけたが、それは屋台のメイン料理の口直しで配っているものだった。

 甘い物はブルーオーシャン状態かしら?
 私がなんか甘い物作って売りだしたら儲かるかな?

 いやまてよ。この世界の人間が甘い物が苦手という説もあるな。
 屋台で出したら誰も買わないとか。

 当初の予定ではレベルの高さを生かして、冒険者のようなことでもしようかと思っていたけれど、この世界には冒険者というシステムが無かった上に、人間の身では旅がツライのでやめていた。

 装備の加工が終わったら甘い物の屋台についてちょっと考えてみるのもいいかもしれない。


 前へ ・  小説設定に戻る ・  次へ