第4話「ククル豆の誘惑」

 ククル豆。
 地球で言うところのカカオ豆かな。

 なんでも地球のカカオ豆は最初は薬扱いだったと聞いたことがある。
 詳しく調べたわけじゃないので真偽のほどは定かでは無いが。

 ククル豆はこちらの世界では明確に薬扱い。
 滋養強壮とかそういう薬。

 いま、大ヒットしているちょこパママも、スィーツというより、なんかこう、「甘い漢方薬」みたいな扱いを受けている。

 あ、こちらの世界といっても、今、私がいるこの世界の話であり、ゲームのFINAL FANTASY XIの設定では薬扱いだったかどうかは覚えていない。
 ゲームとの設定に相違があるかもしれない。

 この世界の人たちは甘い物に耐性が低かったためか、妙にスィーツの格が高い。
 絹のつつしみ(チョコレートケーキのハイクオリティー版)なんて、がんばった自分へのご褒美や、最高のプレゼントとしての地位についている。
 とある仕事でやらかした人が謝罪のお土産に買ってったこともある。

 それにしてもスィーツは数多くの種類を作ったけれど、なぜかククル豆を使った商品への人々の反応は妙な狂気を感じる。
 ……この世界の人間には変な効果があるのかね?
 猫のマタタビみたいな感じに。



 ゲームのFINAL FANTASY XIでは、1アカウントにつき、16人のキャラクターを作ることができる。

 プレイヤーは1人だが、アカウントを作成すると、追加の料金を払う事で、キャラクターを増やせる。
 それをふと思い出し、この世界でもキャラクターを増やせるか調べてみた。

 なんと普通に作れてしまった。
 正確にはゲームの別キャラ作成とは違うが「1アカウントで複数のキャラクター」というならば同じだろう。

 この世界では作った別キャラクターを「式物」と呼称している。

 例のリスポーンするクリスタルにて「式物が欲しい」と念じると、自分と同じ姿の人間が現れる。
 額にビー玉大の猫目石のようなものが埋め込まれているので一発で式物と見分けがつく。

 この式物は誕生させたときに依頼者の記憶と能力と姿がコピーされている。
 誕生後、タッチパネルのような操作で容姿などを変更することができる。
 一度作った容姿は記録しておき、なんどでもセットすることも可能。

 私は2名の式物を作り、自分と髪色を変えた者と、種族をエルヴァーンに変えた者にして使用している。

 式物は一日の終わり(午前0時ごろ)に消滅するのだが、消滅した際に、その日の経験を全て依頼者にフィードバックする。

 毎年、モテない男子が絶世の美女を生成し、一日変態プレイをして、フィードバックで気が狂う事件が起きている。
 プレイの内容はほどほどに。

 そして、一日に大量に式物を作り過ぎると、フィードバックでこちらも気が狂う。
 私の経験上、式物は2人が限界だ。
 3人以上作ると、フィードバックで頭がパンクする。
 私が3人以上作ってしまった際は、3日ほど入院した。脳が過労して気が狂うをいう気分を初めて味わった。

 そうそう。式物が死亡すると、その時点で式物は消滅し、フィードバックされるのでご注意。

 前記したが私は2人ほど常に作っておいて、仕事を回すのに使っている。
 毎朝、クリスタルの安置所に行って式物作成するのが日課だ。



 とある日の事。式物から一日の終わりに経験をフィードバックされた時、記憶をひとつひとつ受け取る中、ちょこパママを食べる場面が出て来た。
 その時、何とも言えない多幸感が身体を巡り、脳内にぶわーっと温かい物が広がるような不思議な感覚に襲われた。

 なんなんだこれは。
 あ、そうか、これがこの世界の人たちが感じているものか。
 え? 大丈夫なのこれ?
 ククル豆は滋養強壮の薬だったのでは?

 自分の身体では感じることはできなかったが、クリスタルで生成したコピーは感じる事ができる。
 なにか身体の作りで違うものがあるのだろうか。

 ほかにも違うように感じるものがないかどうか、式物を利用していろいろと調べてみたいと思う。

 時はC.E.861年
 主要な都市に支店を作る事に成功した。
 地盤を固めていきたいと思う。

 ……ククル豆の商品が違法物扱いされませんように!

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