第6話「ジャグナー要塞・防衛戦」 |
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使者さんが這々の体で逃げ帰ってきてから数時間後。 木々の葉を輝かせていた日が背の高い木々の合間に進んだ頃、ドンッ!! と衝撃が走った。 何事かと思ったが、すぐに10万の鬨の声とわかる。 刹那、両軍から攻撃魔法が飛び交った。 普段は鬱蒼とした薄暗い森が光でパステルカラーに見える。 さすが要塞というだけあって、バリアーみたいなのが備わっていて、初撃は音が響く程度だった。 しかし、城壁を管理している人が悲鳴をあげていた。 初撃でバリアーのエネルギーをかなり持ってかれたようだ。 恐ろしい。あとどれくらい持つんだろうか。 とりあえず、黒魔のアビリティ「マナウォール」を張る。 FINAL FANTASY XIの黒魔のアビリティでダメージをMPで受ける技だ。 平たく言うと個人用のバリアーで、ダメージ分のMPが減る仕組みだが、私はチート能力でMP無限だから、実質無敵! ……ここまでして、ようやく塀の上に顔を出す勇気が出る。 いやー。怖いね。目の前で爆発だの炎だの氷だの風の刃だの飛び交うのは。 ボーリングの玉みたいな石の塊が高速で私の頭に飛んできて、それがマナウォールで弾け飛ぶ。 おやー? 要塞のバリアーエネルギーどうなったー? ひょっとしてもうない? とりあえず、黒魔の本懐。 強力な魔法をガンガン打ち込む。 MP無尽蔵なんだから、上位の魔法を連発だ。 敵味方が入り混じるとできなくなるので、今が、今こそがやれる時だ。 出来うる限りの各属性の最強魔法や、メテオなどの反則魔法を釣る瓶撃ちすると、周りから、すごい! 素晴らしい! っと感嘆の声が上がる。 も、もっと言ってもっと言って。ちょうだいちょうだい。そういうのもっとちょうだい。 じゃないと心折れる! じゃないと逃げちゃう逃げちゃう! 美少女姿でカッチョイイ服着て、キリリと大魔法放っているんだから、きっと私はカッコイイはず! そのハズ! そう思わないとやってけない!! ドーン! っと大きな音が鳴った。右側に衝撃が走る。耳がキーンとする。 ちょっと何? マナウォール、ちゃんと私を守ってよ! 右をチラリと確認。 ……ヤダヤダ。右が無くなっているわ。 私から見て右側の通路、壁、がゴリっと吹き飛んでいた。 一緒に魔法を放っていた黒魔兵士が消し飛んでいる。 綺麗に蒸発してくれればいいのに、兵士の破片が残っているのが非常にキツイ。 すぐさま光の粒子になってクリスタルに行ってくれてタスカル。 ちょこパママ団のメンバーは、とりあえず無事。 私以外は白兵戦を準備して門の方に居るから、塀の上にはいなかったのだ。 あー、これあれか。 私のところから強力な魔法が飛んで来ているから、敵がここに魔法を集中したのか。 よかろう!! マナウォールで身を守りつつ、魔法連発したる! MP無限の恐ろしさを知るといい!! マナウォールのおかげでダメージこそないものの、100以上の人数が同時に放ってくる魔法がぶち当たると衝撃や音がヒドイ。 戦闘開始から1時間ぐらい経ち、たぶん私は大活躍なのだろうけど、やっぱり個人だ。 これだけ頑張って、ひきつけているのは1000人程度、倒した敵は500人程度だ。 いや、個人が500人も倒せば英雄だけどね? 本当なら。 ただ、いかんせん10万対2万という戦況をひっくり返すような事にはなっていない。 今しがた、白兵戦部隊が獣人血盟軍の黒魔部隊の横っ面に突っ込んだ。同士討ちしないよう、魔法を止める。 ゲームでは範囲魔法は味方に当たらないけど、この世界では当たっちゃう。 こちらはジャグナー森林を知り尽くしているので、奇襲がバシバシ決まる。 この地の利でなんとか押し返せないものかな。 私が見えている範囲では、私の魔法で敵が吹き飛び、白兵戦部隊の奇襲でバリバリ敵を削っているので、優勢に進んでいるようにみえるが、ちょこパママ団の諜報系特殊部隊「シュガースポット」からの情報によると、状況はかなり悪いらしい。 多勢に無勢で、兵士の質も同等。 同等とは言ったが、獣人血盟軍の主力兵士の一つであるオークってスペックが熊みたいなもんだね。 熊が人間と同じ知能を持って攻撃してくるって思えば、ヤバさが分かるだろうか。 こちらが有利なのは、要塞があることと、地の利があることだけ。 そろそろクリスタルを運び出すことを検討する段階に進みそうだ。 一番外側の壁がもはや機能していないとの判断で、外から二番目の壁への移動が指示された。 外で遊撃していた白兵戦部隊も退却し、守備兵に加わることになった。 私の周りにちょこパママ団の戦闘部隊が配置される。 若干減ったようだが、クリスタルさえ守れば一か月後に再開できる。がんばらねば。 敵味方が入り混じり過ぎたため、範囲魔法こそ使えなくなったが、未だ私の高火力魔法は健在。 人間が相手するにはキツイ巨躯の敵や魔法生物系を焼き払うのに専念した。 二番目の壁もそろそろ維持が難しくなってきた頃、急報が入る。 どうやらクリスタルを設置していた施設に獣人血盟軍の別動隊が接近しているとのことだ。 クリスタルの設置場所は、この要塞を抜けてラヴォール侯国の城のすぐ近く。 本来であれば要塞がガッチリ守ってラヴォールには行けない形となっているが、ルートの障壁を破壊し、道を作って要塞を迂回したようだ。 通常はそういう迂回ルート作成は要塞からの砲撃や出兵で妨害するのだが、既に二番目の壁まで押し込まれている今、それはできなかった。 また、ラヴォール側の守備も心許無い。 ほとんどの兵士は要塞に来ており、ラヴォールには親衛隊ぐらいしかいない。 この情報が私の耳に入った時は、もうかなり獣人血盟軍は進んでいると思われる。 「別動隊がラヴォールに接近」というのが「いつ」の情報なのか。 どうやらその別動隊ってのも、大隊規模らしいので、ラヴォール守兵での撃破は難しいようだ。 ならば、クリスタルを持ち出してどこぞに逃げるしかない。 で、それが出来る部隊があるのか? それが出来る人間がいるのか? まあ、私ならできるかな。 メゥリリー族の特徴で空が飛べて、なんかしらのチートで無限のMPがあって、マナウォールが使えて。 私が抱えてサンドリアまで飛ぶ。 それが一番丸いかな。 眉を8時17分にしてちょっと迷ったが、すぐに行くことを決心した。 「デジョン!!!」 デジョンを唱えた私、身体のみがクリスタルへと飛ぶ。 周りの人間には私が蒸発したように見えたようで、敵の新魔法攻撃を受けたのかと大騒ぎになったらしい。 説明が後で必要になるだろうなぁ。 突然クリスタルから全裸の美少女が出現して驚く守備兵。 ラヴォールが誇る親衛隊のクリスタルガードだ。 最初は何事か? という反応だったが、次第に「ああ、一か月前に死んだ人か」と判断した。 本当はワープしてきただけなんだけど、そう思ってくれた方が楽なので、あえて説明はしない。 ただ兵士側が早口で現状を説明してくれた。 戦争が起きていることや、もう既にこの施設の扉を破城槌が激しいノックをしていること。 私は説明されて理解しましたというスタイルをとったあと、着替えの長Tシャツを受け取って「式物」を呼び出すと自分の護衛につけ、クリスタルガードに私がクリスタルを運び出して逃げると告げた。 訝しむクリスタルガードに私のマナウォールが凄い事、また、私は飛べる事を端的に説明する。 何を言ってるのか、どうしたものかとの反応だったが、扉が破壊された音が響くと「わかった! 頼むぞ!!」っとなった。 さて。 人間大のでっかいクリスタルを抱えて、長Tシャツ1枚着た美少女が、空飛びながら逃げるわけだ。 その姿を思い浮かべて思わず笑ってしまった。 |
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